中学受験の現状を紐解く 3)5年生前半の算数、全部できないとダメ?

5年生前半の算数のカリキュラムを見る

中学受験のカリキュラムは、どの大手のものであっても、大人が見ても「これは大変!」と言うレベルの内容になっています。算数の問題は5年生になってくると、自らが中学受験を経験していない親御さんには対応しにくい問題ばかりになりますし、理科や社会の5年、6年前半で取り組む内容は、中学校の3年間で取り組むそれと比べても遜色なく、求められる暗記量などはコースによっては高校受験よりもハードです。

 そのような中学受験の勉強で大手塾から提示されるカリキュラムは、全部きちんとやらないといけないものなのでしょうか?ここでは、特に算数の取り組みを中心に事例を挙げてみていきたいと思います。

 ある夏の前、5年生のお子様のいらっしゃるあるご家庭から算数が全然出来ないのですが、どうしたらいいでしょう?というご相談がありました。

 四谷大塚に通う子で、Bクラスの半ばですのでまあまあ、というところですが、4年生まではCクラスできているので、たしかに5年生になって苦労をしているのでしょう。様子を伺ってみると、どうやら、算数は単元ごとにそれなりに取り組めている単元と、そうでない単元が分かれているようでした。

 予習シリーズの5年生前半の算数は、図7ようなカリキュラムになっています。

図7 予習シリーズ5年生前半の算数の単元

確認してみると、どうやら、平均のところ、特に面積図を扱う問題がさっぱりなのと、割合、食塩水、売買損益の割合3兄弟はうまくこなしているようですが、立体の計算、数に関する問題と容器と水量、あたりが苦しそうでした。他方、平面図がらみ、場合の数、そして大事な速さについての問題は十分な出来でした。

 このの評価表で言えば、B以上になっているのが、全体の7割近くあって、Dになってしまっているのは1つだけ、でした。

 7割以上の単元がBクラス相応のレベルまできているのならば、それは「全然できていない」のではなくて、「概ねできているが、一部不得意な単元がある」というのが正確な捉え方と言っていいでしょう。

できていない事よりも、できていることに目を向ける

 そう思ってくれれば、算数の状態についてもポジティブに捉えていけるのですが、現実は多くのご家庭ではその逆で、いくつかできない単元があると、どうしても「夏休みにこの5つの単元を集中的にできるようにしてほしい」とか、「弱点の単元をなんとかしたい」「なんでできないのだろう」というように、どうしても、できている単元、できている面よりも、できていない単元、不得意なところをどうにしかしたい、と言う思いばかりが全面に出て、それが全面に押し出るので、なぜか、そんなに厳しい状況でもないのに、あたかも「算数全体が苦手」なような雰囲気に覆われがちです。

 何より大きなことは、そのように日々接せられると、できている単元については実にさらっと流されて(さもあたりまえのように。実際は、できている単元に対してこそ、子供は結構頑張っているはずです。)、できていないと、ガンガンと詰められる、なんでできないのかと責められる。そういう状態を続けると、当の子供の方が、知らず知らずに「僕は算数できない。苦手。イヤ。」という意見に染まって行ってしまいます。

 そうすると、本来できている7割の単元にも自信がなくなり、自信がないと、テストで余計なミスを犯しがちになり点数が下がって、そうなると、ほらみたことか、ということになって、親御さんからすれば、算数の補習や課題をたくさんこなしてなんとかしよう、ということになる。そうなると、子供はもっともっと気分悪く、やる気なく、つまらなくなっていく。

 だから、そうならないにように、算数の時間をしっかり取ろう、毎週の勉強時間の半分は算数に当てよう、というのがSPAIXさんでは提唱されています。

 しかし、本当にそれが得策なのでしょうか?全部しっかりやり切ろう、とすることが大事なことなのでしょうか?

出題傾向と照らし合わせてみる

その疑問を検討するにあたって、1つの事例を見てみましょう。

図8 法政大学中学の算数の出題の様子

図8は、法政大学中学の算数の過去10回分の出題の様子です。このような出題頻度を一覧にしてくれている表は、過去問を購入するとほとんどの学校において記載をされております。

ただ、この表だけでは今一つピンとこないかもしれませんので、少し加工してましょう。まず、この表を単元ごとに10回分を合計して、出題数が多い順に並べてみます。さらに、1回の入試でどのくらいの問題が出題され、大体何点分の配点がされているか、と言うところを見てみましょう。

それが図9になります。配点については、計算問題は7点で、小問集合が7点、大問が8点なのですが、計算以外は一律8点として計算しています。

図9  出題頻度の高い順に単元をソート

ご覧いただきますと、上位9単元で、実に104点分の出題があります。この学校は150点満点で、問題も学校のレベルに比して簡単な方ですが、受験者平均は90点強、ということが多いので、すでに受験者平均を大きく超えます。

 ここで上がっている9単元については、しっかり大問レベルまで取り組めるようにしていくことが大切でしょう。小問だけではなくて、(1)(2)と続くならば、(2)レベルまで対応できるようになりたいです。この学校の算数を受ける上で、まず真っ先にしっかりと厚く学習していくことが必要な単元です。

 他方で、ご覧いただきたいのが、過去10回で出題が1回以下しかない単元です。それが図10になります。

図10 ほとんど出題されない単元

 場合の数が毎回出るのに、規則性はほとんど出題がない、という非常に偏った出題になっているわけですが、もしも法政を受けるならば、これらの単元が仮に「全くできなくとも」大勢に影響はない、ということになります。

全部できてなくたって、大丈夫だよ!

 そして、ここで先ほどの5年生上の単元を見比べてみて欲しいのですが、先の子の場合、容器と水量、数に関する問題が苦手でしたが、法政を受けるならば、ここって大きな問題ですか??ということです。

 もちろん、満遍なくできているのに越したことはないのですが、でも、こと、法政大学中を受けることを考えるならば、極論、この2単元は、「基本的な問題さえできておけば」大きな影響はない、と言っていいところです。

 そういう単元まで、「完璧」を期す必要があるでしょうか? 塾のクラスを維持するためには、必要です。しかし、この学校を合格するためには、不必要です。そう考えたとき、じゃあ、今回の塾のテストが、苦手な単元が当たってちょっと成績が悪かったからと言って、それはおおごとですか?ということです。塾側からすれば、それがメシのタネ、ですからおおごとだと言いますが、決してそんなことはないと言っていいケースも多いでしょう。

 つまり、受験本番を考えた場合、個別の単元の出来不出来は、しっかりと傾向として認識をする必要はありますが、全てを網羅的にできるようになることが求められるのか、と言えば決してそうではないと言うことです。