【コラム】魔の5年生の乗り切り方

中学受験のご相談で、「受験をやめようかどうか」というご相談が一番多いのは5年生です。これは現段階では感覚的な意見ですが、統計を取ればきっとそうなっていると思います。

中学受験の5年のカリキュラムはなかなか素敵です。予習シリーズの「標準的」な取り組みを見て見ましょう。

算数)

毎週取り組むのは

・予習シリーズ本体  5p程度

・演習問題集  4p程度

・計算 8p程度

国語)

漢字は5年下巻途中で6年までが終了します。

毎週の取り組みは、

読解は、

・予習シリーズ  基本・発展  8p程度

・演習問題集  4p程度

知識面が、

・漢字と言葉   10p程度

理科社会)

社会は前半が地理、後半が歴史です。5年で両方が終わります。理科については、予習シリーズだと、力学の一部を残して、全単元が5年で終了します。

毎週取り組むのは、

・予習シリーズ  要点チェック 2p

・演習問題集「まとめてみよう」4p

・演習問題集 4p

これが2教科分、です。

ページ数だけとってみても、実に合計で59pになっています。

 さらに、四谷大塚系列で週テストを受けるならば、4教科のテストが毎週あり、そのための復習や、テキストのやり直し、暗記などが加わります。

さらにさらに、早稲アカなどの準拠塾では、これに加えてオリジナルのテキストがプラスオン、授業ごとに小テストがオン、となって行きます。

 断言します。

 こんな分量を、毎週コンスタントにあれこれ言わずに2年も3年も続けるのは、とんでもないことです。とんでもない努力をしないと、「継続・完遂」できません。そして、継続・完遂することと、成績が着実に上昇することは、相関性がないとは言いませんが、そんなに強い相関性はありません。そのことはこの著書においてこれまで述べさせていただきました。

 その上、5年生になると、早い子は反抗期を迎えます。単なるイヤイヤの反抗期ではなくて、思春期に差し掛かった反抗期になりますので、親そのものへの忌避感、反抗心、というものが明確になってくる子もいます。

 また、思春期の入り口に差し掛かり、異性への関心が高まって行き、その中での大人から見えない部分での葛藤があったり、はたまた、スポーツをやっている子ならば、上級生になり、そのスポーツの中心選手になっていったり、本格的な大会なども出てきて、そちらへの関心も大いに高まっていくという子も多いでしょう。そもそも、5年生というのは、子供にとっては、なんといっても遊びたい、遊びたい、遊びたい、という時期でもあります。

 そして、何より重要なのは、小学5年生の段階で、受験のゴールを、「イメージ」できる子はそんなに多くはありません。志望校を問われれば、文化祭に行ったり説明会に行ったりして、「ここ」と言える子はいっぱいいるでしょうが、それが、現実的なイメージを持っているかといえば、そうではありません。まだまだ、ゴールテープをイメージできる、山で言えば、「あそこが頂上」と見えるような段階ではありません。

 ここは、大人からするとやきもきしやすいところで、親御さんからみると、受験のゴールイメージというのは明確ですが、同じように5年生の子供がイメージできるかといえば、大概はできません。できているという子は、親御さんから強制的につけさせられている、というのが正確ではないでしょうか。

 これが明快になってくるのは、単元学習が終わり、6年次の模擬試験の偏差値が出て、本当に行きたい学校が明確になり、そこの過去問などをやって見たときに、近いか遠いかはともあれとして、「ああ、あそこがゴールテープか」というイメージが湧いてくる、そういうところが多くのこの実際でしょう。

 こういう状況の中で、運良く成績状況が好ましければいいですが、成績が不幸にも低迷しがちだと、親子ギャップが生じがちです。

 子供としては、「やってるけど、しんどい、やりきれない」。親御さんとしては、(成績が悪いのだから)「ちゃんとやっていない」、というところです。

 そして、親子でまずぶつかるわけです。

 でも、大概親子でぶつかってもあまり解決しないので、塾へ話を持っていくのですが、根本的には解決の方向性は、「もっと勉強しましょう」「しっかり復習をしましょう」のようなものしか出てこないことが大概です。集団指導の塾ですと対応しきれないので、個別指導の塾に個別対応をお願いしていく、というようなことにもなっていきます。(そうすると、さらに塾の時間が増えます!)

 そのような形で、勉強する時間を増やす、勉強する量を増やすと、根本的な問題は解決してはいないので、あまり事態は好転せずに、give up、という形になりやすいです。40kmを走りたいのに、100m走しかしたことのない子に、走り方を教えないのに、走り方を変えないのに、ただただ「たくさん走れ」と言ったら、それは倒れてしまいます。

 是非、今一度、冷静に見て欲しいのです。

 だいたい、そもそも、このカリキュラムは基本的には無理です。気が狂います。5年生は大概学校のイベントも多いです。(移動教室などの宿泊を伴うものもあります)そして、算数のところで見たとおり、何もこれらのカリキュラム、本当に「全部まるっとしっかりと」できていないと、受験において致命的な不利があるのか、と言えば、そんなことはありません。

 5年生の勉強は、全部できる必要はありません。

 そう腹を決めて、それよりも、5年生という、非常にセンシティブな時期に、このような高度な学習を多量に「やり続けている」、毎週テストと宿題をこなし続けている、そのこと自体が「尊い」です。確実に。そんな勉強を、間断あれどもやり続けている、というのはある種の奇跡です。それ自体が素晴らしいです。

 だから、5年生の勉強は、成績の上下もありますが、まずは「やり続ける」ことが最も尊く大事で、次に「できる限り前向きに」できてくれればいいし、結果として「成績が伴えば」儲けもの、というところです。この順番を、逆にすると、とても苦しくなります。

 受験勉強に必要な要素を、

・能の発達

・目的意識の明確化(強いモチベーション)

・精神的、体力的余力

・基本的の知識

と考えた場合、脳の発達は一般的には10歳で90%に達し、12歳で概ね100%に達すると言われております。もちろん、それに対して個人差があるわけですが、やはり戦いやすいのは、より大人の知能、脳に近づいた状態であるのはいうまでもありません。さらに、目的意識が本当に、「現実感」を持ってくるのは、多くの子にとっては6年の7月くらいを中央にした時期です。そして、大事なのは、その2つの要素がMAXに近づいたときに、「どれだけ余力が残っているか」ということです。この余力は、「親子ともに」ですね。

 6年生の夏休みを迎えて、「ああ、もう5ヶ月で終わる」と思うか「よし、いよいよスパートの5ヶ月だ!」と思えるか、当然、後者の方が好ましい状態であるのは間違いありません。しかし、例えば、小学3年生から受験にのめり込んできたご家庭にに、「さあ、ここからが本番。スタートです!」といっても、なかななかどうして、そういう実感では捉えてくれにくいでです。

 しかし、マラソンならば30キロ、ここからが勝負なわけです。ここに、どれだけ、好ましい体力・知力・精神力の状態にしておくか、それが最も大事なことです。

 ですから、5年生の一番苦しい時の様子でもって、受験の有無を判断すること、それ自体が間違いです。5年生の勉強を、「取り組んでいる」こと自体が尊いものですので、まずは、成績よりもできる限りこの勉強を「前向きに」取り組めるように、乗り切れるようにすることが最大のテーマです。

 たとえ成績的に苦しくとも、思うようにお子様が動いてくれなくとも、今、目の前の勉強を続けているならば、5年の勉強は乗り切ること、それ自体を目的にしていいです。そう思えば、この時期に、無用に時間を詰め込んで、なんとか成績を整えよう、あげよう、という方向性になる必要はありません。この苦しい時期に、さらに苦しめるようなことをする必要はありません。本当に鞭打って効果があるのは、6年生の後半、です。