中学受験の現状を紐解く 1)大手塾の受験実績の比較

図1 SAPIXの開成・桜蔭合格数

中学受験の現状につきましては、やはり一つの検討の軸となるのは大手塾の数字、その中でも現状は1強といっていいSAPIXの様子を中心に見ていく、ということになるでしょう。まずはじめに、SAPIXがいかに現在強いのか、ということを見ておきたいと思います。

図1は首都圏の男子TOPの開成中学と、女子TOPの桜蔭中学に合格したSAPIXの生徒の数です。開成の定員は300、毎年合格者数は400名前後ですから、実にSAPIXの占有率は50%を超え続けている、ということになります。桜蔭も定員は240名で、合格者数は例年270名前後ですから、こちらに至ると近年は3人に2人はSAPIXの生徒という驚異の占有率になります。これはもう、基本的にはこれらの最上位校を目指すならばまずはSAPIXを検討しないのは愚、と言ってもいいレベルです。

図2 SAPIXの開成・桜蔭合格率

続いて図2は、SAPIXの生徒の全体生徒数を母数として、開成・桜蔭に合格した人の割合を示したものです。こちらを見ても、SAPIXの在籍生の実に8%程度がほぼ毎年この2校に入ってるわけです。中学受験を目指す生徒が首都圏で2万人として、この2校の定員は2%程度な訳ですから、SAPIXの通塾生は圧倒的な合格率を誇ることになります。つまり、SAPIXが現状首都圏の中学受験に対して、ほぼ1強と言っていい次元での高い合格実績を、TOP校に対して誇っているということが言えます。

 次にSAPIXならどこでもいいのか、という視点で、校舎ごとの実績を見て見ましょう。一昔前の日能研は実に一学年で1万人以上が在籍したと言われております。しかし、日能研は今でもそうですが、校舎ごとの合格実績がとても大きく違っており、日能研というよりも、どの教室長にあたるかが大事、というのが実情に近いものでした。

図3  SAPIX校舎ごとの在籍数とTOP校合格率

ではSAPIXではどうでしょうか?

 図3では在籍数の多い校舎と在籍数の少ない校舎で開成・桜蔭の合格率を比べて見ました。

 学習塾はどうしても、在籍数の多い校舎の方が強い校舎に見えるのですが、この数字を見ますと一概にそうとは言い切れいないのだな、というところが見て取れます。

 東京や吉祥寺などは中心中の中心なのですが、他方中野は四谷大塚の本校のあるところで、四谷のお膝元、というべきところです。また、王子は唯一の23区の北部にある校舎で、この地域は23区内では他の地域と比べても経済的な面で劣る地域で、そのため絶対的な生徒数では明らかに劣りますが、合格実績では決してメイン校と比べても引けを取りません。

 つまり、SAPIXは概ね「校舎による当たり外れ」を懸念しなくていいと言える、非常に珍しい塾です。これは、SAPIXのカリキュラムがとても優れている、ということの証左と言っていいでしょう。結果として、図4 のように、SAPIXが多熟を引き離して圧倒的な実績を出し続けてきております。

図4  塾ごとの開成・桜蔭合格数

ところが、大学付属レベルになると様相が違います

図5 大学附属校の合格実績比較

 図5 の表を見ると、早慶マーチクラスの大学付属校になってくると概況は一変して、四谷大塚と早稲田アカデミーが一気に優勢になってきます。SAPIXが明らかに優勢なのは青山学院で、実はここでは割愛ましたが、慶応義塾も、SAPIXが100名越え、四谷大塚が40名弱、早稲田アカデミーが50名強、と明らかにSAPIXが強いです。

ここから推測されることが一つあります。この仮定は大変大きなものです。それが、

「SAPIXに通っているご家庭は富裕層が多いと思われる」

ということです、。

 これは大きな仮説であり、心象的には正しい仮説です。もしこれが実証されると、先に出しました「SAPIXのカリキュラムが優れている」というの前提が大きくくずれます。昨今は東大生が最も世帯年収が高い、つまり、経済力と学力が比例する、と言えるわけで、そうなるとSAPIXが優れているのは、カリキュラムではなくてブランディング力、ということになります。言って仕舞えば、SAPIXには、お金持ちでそもそもご両親ともに優秀な家庭が揃っており、そのような生徒が集まるブランド力があるわけであり、それを前提に考えると、SAPIXのカリキュラムが優れている、と言うのは一概には言えなくなる、と言うことです。また、統計データはありませんが、通っている方の様子を観察しますと、SAPIXに通わせているご家庭のかなりの割合が、専業主婦のご家庭、と感じます。これも、共働き世帯と比べると、ご家庭での学習サポートに対する前提も大きく変わってきます。

図6 小学4年生の塾費用の比較

SAPIXには富裕層が集まっている、この仮説を示唆するもう1つのデータが、中学受験塾の年間の費用比較です。

 図6 は中学受験塾大手の4社の4年生の時の料金を比較したものです。こちらを見ると、実に学費もSAPIX一強です。小4の1年間で60万というのは、月にならせば5万円。もちろん、講習期間にその費用の多くがあてがわれるでしょうから、毎月の金額はそこまではいきませんが、それにしても、この調子でいけば6年生の1年間は100万を優にこええていくのは明白です。冷静に見て欲しいのですが、浪人して1年間予備校に行く費用が、例えば駿台予備校ならば概ね85万円程度ですので、それよりもはるかに高い金額を払うことになります。それも、3年、4年となればもう、普通のご家庭には難しいのではないかと思われるレベルです。

ここまでSAPIXの様子を数字をあげてみてきましたが、ここまでで出た疑問、「SAPIXの実績は素晴らしいが、それって、SAPIXのカリキュラムや指導が優れているからなの?」と言う点について次回はみてみたいと思います。