中学受験の現状を紐解く 2)SAPIX復習主義は絶対か?

SAPIXの復習主義とは?

「6年生になってからは、学校から帰って来てすぐに30分勉強。それから塾に行って16時半から21時までが授業。帰って来てからも宿題を1時間強勉強。平日は、塾のある日は6時間、ない日も4時間は勉強をしています。休日だと、午前中に5時間、午後は7時間くらいは勉強をしていて、それくらいをやらないと偏差値50にはならない、と言われています」

 これは、とあるご家庭とご面談をした際に話していただいた内容です。多かれ少なかれ、中学受験を目指しているご家庭では、似たような神話を耳にしているはずです。

 しかし、これですと、1週間に実に50時間以上を勉強しています。ちなみに、学校では45分の授業が週に約30回あるので、1400分、つまり25時間もありません。学校での勉強時間の倍、も勉強しているわけです。

 この勉強時間がさも当然、と言えるのは、SAPIXの掲げる学習方針である「復習主義」にあるといっていいでしょう。

 SAPIXのHPからちょっと記載内容を転記させていただきます。

サピックスでは子どもたちが自ら関心を持って考え、学んだことがきちんと身につくようにするために、授業から教材まで「復習中心の学習法」に基づいて構成しています。子どもたちには、塾の授業に予習をすることなく臨み、その場でその日の課題に取り組んでもらいます。そして家庭では、塾で学習した内容の復習を中心に進めてもらいます。塾と家庭での学習を復習主体に組み立てて、全体として学習の定着度を高めていこうというのです。

では、実際にはどのように『復習中心の学習法』が実践されているのでしょうか。

まず、サピックスではその日に使う教材はその日の授業で渡します。子どもたちは予習をしてくる必要はありません。入試がそうであるように、テキストの内容は子どもたちにとっては初めて出合うものです。「今日はどんなことを勉強するのかな?」という子どもたちの知的好奇心をかき立て、授業に集中させます。

授業では板書を媒介にして子どもたち自身が問題に取り組み、講師が解説します(『黒板授業』『討論式授業』はサピックスの指導法の大きな特色です)。そして授業終了時には、その日に学んだ内容を家庭で復習できるように「復習教材」を渡します。教材には授業での学習内容が自然に身につくように、易しい問題から難しい問題、発展問題、類似問題など難易度や問題の質を考慮した課題が盛り込まれています。授業中は講師の誘導によって簡単に解けた問題でも、一人で問題に向き合ったときに、はたと解けなくなることがあります。授業で学んだことを一人で考え直したり確かめたりする時間は、学力の定着に必要不可欠であり、塾での学習と家庭学習は、車の両輪のようなものなのです。サピックスは、家庭での自学自習が塾での学習と同じように重要だと考えています。

 非常に素晴らしい、理にかなった話で、この考え方と真逆に対立するのが四谷大塚の予習シリーズ、の考え方ですね。

本当に「復習主義」が優れているの?

 問題は、この復習教材をきちんとこなすことに、非常に大きな負荷がかかるということです。量もそうですし、次の機会にすぐに小テストがありますので、そこへのプレッシャーもだんだんと増して来ます。合理的ではあるのですが、例えば「消去算」を今週学習したとして、それを今週中に基本から発展までやり切っていかなければならない、それが毎週毎週続いていく、この連続が4教科ある、というのは非常に痺れます。やっていくと、本当にしびれます。

 何よりつらいのは、風邪で2週間休んだ、移動教室があって今週は宿題はできなかった、運動の大会があってそれどころでなかった、新しいゲームにはまった、運動会の前で応援団の練習が遅くまで続いた、などなど。小学生にもイベントがいっぱいで、しょうがないことですが、たくさんくる小学校の一つ一つのそのようなものに付き合っていくことは出来ないので、それらの週も頑張るか、未消化として諦めるか、というところになります。いや、潔く後者を選べればいいのです。たかだか1単元ぐらい、いつでもキャッチアップできます。でも、テストがあって、クラスが落ちる、というようなことにつながると、だんだんとそういう気持ちにもなれなくなり、子供に無理を強いることになりがちです。

 さらに、復習主義で取り組むと、どうしても「定着は家庭の仕事」という側面が強くなります。授業を受けても、当然に「わかっていない」ことは出るのですが、それを解消する機会は、基本的には授業ではさほど与えられず(そうはHPでは言っていませんが)、宿題の中のわからない問題、理解できていないこと、をサポートするのは、親御さんに必須に求められることです。

 意地悪くいうと、それで、圧倒的な受講料を取っているわけです。

 ですから、ざっくりいえば、専業主婦(主夫)世帯でないと、SAPIXの求めるレベルの学習を家庭で提供するのはきわめて難しいです。そして、専業主婦世帯で、年間100万近い塾代を払える、ということになると、一定の年収層、ということになり、穿ってみれば、要はそういう、バックボーン的に恵まれた人が集まっているから実績が出やすいのであって、カリキュラムが優れているからではない、というのは仮説としては十分に成り立ちそうなものではないかと思います。

 そうであるならば、1週間に50時間もやる勉強時間、というのも、「おかしいんじゃないか」と疑ってみるのは当然のことです。

 そして、真っ先にその勉強時間で疑いの目を向けるべきなのは、SAPIXでも「勉強時間の半分は算数」と言われているように、算数の勉強時間、でしょう。50時間の半分は25時間です。1日3時間以上、です。そんなに算数って大事?そんなに難しい?

 次章ではこの算数をテーマに「中学受験の勉強は本当に全部やらなきゃいけないの?」と言うところを見てみたいと思います。